佐藤可士和展を、
可士和さんに
案内してもらいました。
佐藤可士和
Kashiwa Sato
クリエイティブディレクター
ブランド戦略のトータルプロデューサーとして、コンセプトの構築からコミュニケーション計画の設計、ビジュアル開発まで、強力なクリエイティビティによる一気通貫した仕事は、多方面より高い評価を得ている。グローバル社会に新しい視点を提示する、日本を代表するクリエーター。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン・ジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、ふじようちえん、カップヌードルミュージアムのトータルプロデュースなど。近年は武田グローバル本社、日清食品関西工場など大規模な建築プロジェクトにも従事。2021年には、クリエイティブディレクターとして初めて国立新美術館にて「佐藤可士和展」開催。
文化庁・文化交流使(2016年度)、慶應義塾大学特別招聘教授(2012-2020)、多摩美術大学客員教授。著書に「佐藤可士和の超整理術」(日経ビジネス人文庫)など。
毎日デザイン賞、東京ADC賞グランプリ、朝日広告賞グランプリ、亀倉雄策賞ほか多数受賞。
公式サイト:kashiwasato.com
子どもの頃から、絵と記号が好きだった。
佐藤可士和展の開催、おめでとうございます。今日は、今治タオルのブランディングプロデューサーでもある可士和さんに、この展覧会を案内していただこうと思います。
佐藤可士和氏(以下、敬称略):よろしくお願いいたします。まず、こちらは小学校5年生のときの絵です。その頃からロゴとか記号が好きだったんですね。いまでも僕にとってベースであり大切にしているのが「絵とアイコン、整理、SPACE(スペース)」なのですが、小学生のときから基本的なところは変わっていなくて、それが、この展覧会全体を貫いています。
小学校5年生のときに描いた、「アリ」(左)と「宇宙」。
佐藤:それからこちらは「6 ICONS」という作品で、僕が大学卒業して、博報堂に入ったばかりのときに、初めてのボーナスでMacintoshを買ってデザインしたものです。自分をテーマにして作ったもので、いわば自画像みたいなものですね。
広告の領域を拡張してきた
エポックメイキングな作品たち
佐藤:さらにこちらに入っていくと、ADVERTISING AND BEYOND(アドバタイジング・アンド・ビヨンド)というテーマの部屋があります。僕はデザインや広告の領域をもっと拡張しようと思って、2000年に博報堂から独立してSAMURAI(サムライ/佐藤可士和氏が代表を務めるクリエイティブスタジオ)を設立しました。メディアの使い方とか、キャンペーンのあり方とか、ビジュアルの展開の可能性など、すべて拡張していこうと挑戦してきたのですが、ここでは、そのなかでもエポックメイキングだったものを展示しています。
佐藤:当時、渋谷や品川で掲出した駅貼りポスターの現物を展示していたり、SMAPのキャンペーンで展開したビルボードを実際のスケールをほぼそのまま再現していたりして、街中で見た迫力を美術館のなかで体感していただこうという部屋です。例えばOZOCは、実際に当時フラッグシップショップを原宿に建てて、その建築をメディアとしてブランドキャンペーンを行ったものなんですが、メインビジュアルは、プレゼンテーションのときに制作した建築イメージのラフをそのまま広告に使用して、新聞やポスターに展開しました。
当時すごく話題になったのを覚えています。
佐藤:こちらはSMAPのキャンペーン。SAMURAIを立ち上げて、いちばん最初の仕事だったんですけれど、グループをアイコンにしたという実験的な試みでした。このキャンペーンで、はじめて街をメディアにするということを試みました。TVCMをやめて、駅貼りポスターやビルボードやラッピングバスを使って、渋谷区をメディアにした。その頃はまだスマートフォンもSNSもなかったのですが、いまでいう「バズ」を起こしたんですね。SNSがないから、スポーツ新聞やワイドショーで全国に拡散してもらうということを、当初から想定し、そのためにセンセーショナルに見えるようなビジュアル戦略を考えたプロジェクトでした。
当時のスケール感を美術展のなかで再現。
佐藤:具体的には、渋谷のメインストリートに駐車している車に全部キャンペーンビジュアルのカーカバーをかけてもらうとか、キリンビバレッジさんと組んで「Drink! Smap!」というアルバム名と同じ飲料を本当に開発して販売したりとか。広告なのにみんながお金を出して買ってくれるという、なかなかあり得ない状況もニュースになりました。
それまで日本ではあまり街をメディアにするというアプローチはなかったけれど、このあとはそういったキャンペーンも流行りましたね。
佐藤:僕が2000年にこれをやったときはOOH(OUT OF HOME/屋外メディア)という言葉も一般的ではなかったんですよね。「看板」と呼ばれて、あまり注目されないメディアでした。そのとき僕は、渋谷区とか港区の地図を見て、ビルボードがある位置を全て調べて、どこに出稿するかというところまで考えましたよ。どういう導線で人が動くのかなどを考慮しながら。
クリエイターがそこまで考えるのは、いまでも珍しいですよね。普通はメディア担当が考えて提案するカテゴリーですけれど。
佐藤:当時すごく屋外メディアに詳しくなりましたよ。媒体名とか値段まで全部知ってました(笑)。
佐藤:街をメディアにするという考え方をグローバルで行ったのがユニクロで、ニューヨーク、ロンドン、パリ、上海、ベルリン、モスクワなどで、その戦略でキャンペーンを実施しました。最初はニューヨークにユニクロのグローバル旗艦店を出すときに、ユニクロというブランドをロゴを通して楽しく覚えてもらおうと「ロゴプレイ」というコンセプトで、オープンを告知していきました。マンハッタン中のたくさんのメディアを買って、ほぼここに展示されているサイズ、スケール感で、あらゆるところにロゴを出していきました。この目の前をユニクロタクシーが走ったりして。当時ニューヨークにいる友人から連絡きて、「これ可士和やったの?スゴイよ、いまニューヨーク」と言われたりしました。この頃は、2006年で、まだSNSはなかったけれど、ブログで話題になったりしましたね。インフルエンサーマーケティングもかなり早い時期から取り組んでいました。
佐藤:いわゆる通常の広告キャンペーンのメディアの考え方も、ビジュアルの考え方もそれまでの常識にとらわれずに構築していきました。例えばSMAPの広告は、普通はメンバーの写真を出すものだと思うけれど、一切出さずにアイコンだけで展開したりとか。ユニクロも、通常のセオリーではファッションブランドだからファッション写真で打ち出していくところをそうではないアプローチだった。そういう「アイコン」を用いた戦略を考えてきました。
圧倒的な迫力を持って、
ロゴの重要性を伝えたかった
佐藤:次の部屋が、The LOGO(ザ・ロゴ)です。ブランディングのなかで、僕はすごくロゴというものを大事にしていて、ある意味、要だと思っています。ブランドの存在を認識してもらうには、ネーミングとロゴが基本だから。ブランドを知る第一歩がロゴであり、また最後もロゴに戻ってくる。そんな重要なロゴなのに、なかなかこういう場では伝えづらいというか、その存在はみんなの頭の中にはあるのだけれど、実際に掲出されているのはアプリアイコンや商品に付いている、小さなタグだったりするので、それをそのまま展示しても、ロゴの重要性は伝わらない。そこで、スケールを大きくすることを考えて、空間全体のインスタレーションとして、圧倒的な迫力を持って僕の考えるロゴの重要性を伝えようと思いました。
このロゴ、近くに寄ってよく見てください。大きいだけじゃなくて、各クライアントの特徴に合わせた素材で作っています。例えば、DAIWAは、フィッシングの竿に使われているカーボンテクノロジーが特徴的なので、このロゴもカーボンで作っていたり、エイブル&パートナーズは、住まいや部屋を扱っている企業なので、空間や家具を思わせるような、箱型の立体にしている。ユニクロは、UTではさまざまなアートのTシャツを作っていて、MOMAやルーブルともコラボレーションしているので、キャンバスに油絵でロゴを描いています。楽天は情報テクノロジーで本当に多くのビジネス領域にまたがる展開をしているので、モニターにしてRのロゴのなかでそれに関する映像を流しています。そして今治タオルは、実際のタオルでロゴを織っています。
巨大タオルによる今治タオルロゴ。今治タオル工業組合が製作。
近づいてみると、本当にタオルですね! こんなに大きなタオルも織れるものなんですね。
佐藤:今治タオル工業組合さんに相談して、大きな織機を持っているタオルメーカーにお願いして作っていただきました。色やサイズなどの調整で、3回くらい織り直していただきましたね。
ひとつひとつのロゴを作るのすごく大変だったんじゃないですか?
佐藤:すごく大変でした。新型コロナウイルスの影響で会期が延びたんですけれど、もともとの会期で間に合っていたのか・・・という状況です。それから、ここにはロゴの設計図も展示していて、それぞれの書体のサイズなども細かく設定しています。それくらい緻密に作っているので、ここまで大きくしても持つのです。ロゴの耐久性みたいなことを大事にしているので、普段見ているような小さいロゴが巨大なロゴになっても印象が変わらないのです。
そういう数値を設定するロゴの作り方は一般的なんですか?
佐藤:わかりません(笑)。逆に聞いてみたい。僕はわりとこだわる方だとは思いますが、きれいな比率が好きなんですね。感覚を数値化することにこだわっていて。整理ですよね。曖昧なところをなくそうとしているんです。
小5の時に描いた自分の名前のタイポグラフィ。
佐藤:ここはグラフィックデザインの部屋です。キャンペーンやブランディングプロジェクトではなく、単発のポスターや、本の装丁など、グラフィックデザインを展示しています。僕の中ではグラフィックデザインも重要な要素なので。空間や映像や立体を作るときも、グラフィックデザインがそのベースになっています。そしてここにも小学校5年生のときの作品を展示しています。これはタイポグラフィですね。ロゴのもとみたいなものを小5のときにつくっていました。
子どもの頃から志向が変わっていないんですね?
佐藤:今回やってみて、変わっていないということがわかりましたね(笑)。改めてこう深掘りしていくと、ほとんど小学生のときに好きだったことが、そのまま精度が上がっている。
この仕組みを作ったことが、作品なんです。
セブン-イレブンの4000アイテムと、そのデザインシステムの設計書を展示。
佐藤:そしてこちらは、ICONIC BRANDING PROJECTS(アイコニック・ブランディング・プロジェクト)というエリアで、ブランドを構築するプロジェクトの全体を紹介するコーナーです。最初はセブン-イレブン。4000アイテムくらいのPB(プライベートブランド)商品があるんですけど、その一つ一つのパッケージデザインをしているというのではなく、フォーマットをデザインしているんですね。商品名はこれくらいの幅で、色はこうで、書体はこうしましょうという、デザインマニュアルを作って、みんなで共有してブランドを作っていこうという。おにぎりから洗剤まで、食べ物は食べ物らしく、雑貨は雑貨らしく作らなければいけないので、普通は統一感を持つのが難しいのですが、デザインのルールを決めてそれに沿って運用していくことで、多岐に渡る数多くのアイテムに統一感が生まれていく。実際セブン-イレブンのお店のなかで、個々の商品を”面“としてデザインしていくことで「セブンプレミアム」というブランドを構築している。そういうデザインシステムが作品なんです。
この4000アイテム並んだ状態が作品だということですね。
佐藤:そうです。面が作品なんですね。この銀鮭の塩焼きが国立の美術館に飾られているという状態は、とってもシュールだと思うんですけど(笑)。このセブン-イレブンのアイテムに関しては、今もデザイン監修が続いています。3年に1度くらいは大きなリニューアルがあるのですが、それ以外の期間も毎週デザインの確認会があり、そのシステムからずれていないかを監修するということを、もう10年くらいやっています。
佐藤:次の部屋は日清食品です。日清食品は企業ブランディングのキーワードに「ユニーク」ということを据えています。「ユニーク」ということに沿って今までに手がけてきた名刺、社史、カップヌードルミュージアム、関西工場などのプロジェクトを、真っ赤なボックスのなかに展示しました。
日清食品の部屋。この反対側にはカレーメシくんの着ぐるみも展示されている。
本当に、こういうおもしろくて尖った表現もあるし、セブン-イレブンや今治タオルのように清潔で真摯なブランドもあるし、改めて可士和さんの幅の広さに驚きます。
佐藤:はい、そういう幅を感じていただけるように展覧会の構成を考えています。真っ白い空間の後に真っ赤な空間があったり、細長い通路の次はドーンと広い空間があるとか。美術展ですが、エンターテイメント性も大切にしたいと思い、来ていただいた方に楽しいと感じてもらえたらいいなと考えながら構成を考えました。本当は、カレーメシくんの着ぐるみが1日に何回か会場に現れるような演出も考えていたんですけどね(笑)。新型コロナウイルスの感染対策で、断念しました。
さまざまな空間ブランディングの事例を展示。
佐藤:ここもアイコニック・ブランディングの続きですが、そのなかでも空間をテーマにブランディングした事例をメインに展示しています。
今治タオルもありますね。
佐藤:はい。スペーシャルブランディングというキーワードは、僕の中ですごく大切にしています。空間をブランディングのキーメディアにするということですね。
今治タオルでいうと、本店や南青山店とか。今治市のサイクルステーションのようなものですね。
佐藤:そうです。店というのはすごく重要なものですよね。
今治タオルを復活させた5つの戦略。
佐藤:今治タオルの場合は、空間だけではなくさまざまな施策がブランド戦略の柱として機能していきました。まずここに、プロジェクトの核になっている5つの戦略を紹介しています。ロゴと、白いタオルと、5秒ルール、タオルソムリエと、タオルマイスター。今治タオルのプロジェクトに取り組んで、最初に考えたリブランディングのための重要な施策ですね。
今治タオルの核になる5つの施策。
大きな白いタオルのなかに展示された今治タオルロゴ。
佐藤:この横にタオルソムリエの認定証と、『今治タオル 奇跡の復活』という本を展示しているのですが、認定証そのもののデザインを見てほしいというよりは、そういう施策をやったこと、本そのものというよりは、『今治タオル 奇跡の復活』という書籍が出版されるような状況に至ったことを成果として展示しています。最初は棚を作って白いタオルを並べようかなと考えたりもしていました。
でも確かに、最初に各メーカーに白いタオルを作るよう可士和さんがディレクションして、それが今治タオルの品質や、安心・安全なブランディングの核になったので、そういう展示もよかったように思います。
佐藤:でもそうするとプロダクトを作ったのはメーカーさんなのに、僕が作ったように見えてしまうかなと思って。今治タオルはいろいろなことの積み重ねで今日に至るので、一気に伝えるのが難しいですね。
iPadをかざすと、実際にオープンしたときの景色を体感できる。
佐藤:こちらは、今年の夏に相模原にオープンする「ALFALINK(アルファリンク)」という日本最大の物流施設のプロジェクトです。このiPadをかざすとインタラクティブに仕上がりが見えるという仕組みになっていて、かなりの精度でできています。物流施設の中にこの「リング」という共用施設があって、一般の方も利用できるんです。レストランとかコンビニ、託児所やジムも入る。それ自体がすごく新しい。周りの倉庫とこの「リング」が橋でつながって、働いてる人たちが昼休みとかにここに来ることができます。
楽天の技術を駆使した「UNLIMITED SPACE」
佐藤:また、こちらの部屋は、楽天の技術研究所やデザインラボとコラボして制作したインタラクティブデジタルインスタレーションで、世界中の楽天サービスサイトの検索ワードが浮かび上がって可視化されます。入ってみました?
さっきやってみました。自分と同じように動くんですよね。さっきのアルファリンクといい、インタラクティブなIT技術もふんだんに使われていて、おもしろいですね。
佐藤:ここはインターフェイスデザイナーの中村勇吾さんにも協力していただいて、最先端の技術が駆使されていますね。
最後は「絵と記号」に帰ってくる。
佐藤:ここは、「LINES&FLOW」というアートワークの部屋です。今回の美術展のキービジュアルである、直線をテーマにした作品である「LINES」と、動力と重力だけで描かれた「FLOW」という作品を展示しています。最初に展示していた小学校の時の作品に通じる「絵と記号」ですね。
つながっているんですね!
佐藤:そう、つながっている。あの「宇宙」と「アリ」が、ここにつながっているのです。
買うところまでが作品です。
佐藤:そして最後は「UT STORE@THE NATIONAL ART CENTER,TOKYO」です。この「佐藤可士和展」のために27種類のUTをオリジナルでデザインし、このスペシャルパッケージもデザインしました。Tシャツは全国のユニクロのUTコーナーでも買えますが、この箱は美術館限定です。ブランドを認知してから商品を購入するところまでのトータルプロデュースが僕の作品なので、「UT」に関してはこのような展示を考えました。
これは楽しい。いろいろあって迷いますね。
佐藤:さらにミュージアムショップには、オリジナルデザインで制作したいろいろなグッズが販売されています。今治タオルやタオルマフラーもありますよ。
ありがとうございました。お買い物もゆっくり楽しんで帰りたいと思います。
美術展オリジナルのタオルグッズは、なんと全部で14種類。
バスタオル4種(丸栄タオル(株))、フェイスタオル2種(丸栄タオル(株))、ハンカチ6種(七福タオル(株)、
(株)藤高、渡辺パイル織物(株))、タオルマフラー2種((株)丸山タオル)。
今治タオルのロゴの隣に、今回のオリジナルロゴが並ぶ。
エントランスすぐのスペースは、フォトスポットにもなっている。
今治タオルのマフラー。可士和さんに巻いてもらいました。
佐藤可士和展公式サイト
https://kashiwasato2020.com/
国立新美術館
https://www.nact.jp/
今治タオルオフィシャルオンラインストア
https://imabari-towel.jp/shop/pages/sp_sato.aspx
佐藤可士和展特集
佐藤可士和展
2021年2月3日~4月25日東京・国立新美術館にて開催。
日本を代表するクリエイティブディレクター佐藤可士和氏の約30年に渡る
活動の軌跡を、キャンペーン、ロゴ、空間、グラフィック、アートなど、
さまざまな角度から紹介する。