2024.05.24 |学校法人今治明徳学園 FC今治高等学校 里山校

学校法人今治明徳学園 FC今治高等学校 里山校




FC今治高校里山校
2024年4月に開校した愛媛県今治市の高等学校。サッカー日本代表の元監督・岡田武史氏が学園長を務める。
一般の高校とは異なり探究での学びを通じてそれぞれの人間力を育てるカリキュラムで注目を集めている。
辻正太(つじ・しょうた)
1982年、奈良県吉野町生まれ。東京大学教育学部卒業。専攻は身体教育学。
卒業後、埼玉県の中高一貫校に11年勤務。新しい学びの形を模索して 2016年に青森県弘前市に移住し、その後起業。
コラーニングスペースHLS弘前を運営し、様々な角度から人材育成に取り組む。
(株)まちなかキャンパス 代表取締役。2024年4月よりFC今治高校里山校 校長就任。

新時代を生き抜く
キャプテンシップを育てよう

FC今治高校 里山校(FCI)は、2024年4月に開校した愛媛県今治市の私立高等学校。
サッカー元日本代表監督を務めた社会起業家・ 岡田武史氏が学園長を務め、サッカーの学校ではなく、主体的に動き、自分で考え、仲間と共に助け合える新時代のキャプテンを育てる学校です。
そこで今回IMABARI LIFEは、今治へ取材に伺い、校長の辻正太さんにお話を聞きました。

「新しい学園のあり方」とは?
岡田武史氏と志が一致して合流

よろしくお願いいたします。まず、今回開校に至った流れをお聞きしたいのですが。
辻正太さん(以下、敬称略):もともと今治明徳学園には本校と矢田分校があり、本校は、運動・美容と、不登校経験を持つ子などが通うチャレンジコースという3つのコースがあって、矢田分校の方は進学校で、地域一番の公立校である今治西高校の併願校という立ち位置にありました。しかし少子化により、いよいよ西高が定員割れするような状況になり、それに伴って学園全体が定員割れするようになってきてしまった。
そこで、新しく理事長になった村上康氏が、FC今治の社外取締役だったこともあり、岡田武史氏に「学園を一緒にやらないか」とラブコールを送り続けていたんです。岡田さんも、「ただ自分が客寄せパンダになるだけならやらない。本当に新しい教育をやっていくのであれば」ということで、2020年に理事に入りました。岡田さんも、もともと教育に対する危機感や違和感は持っておられて、いままでの学校にはない新しい学校を作るならぜひやりたいということで。そこから学校の経営状況や学園を取り巻く状況を見ながら、新しい学園のあり方を考えてきた。というのがひとつの流れです

FC今治高校里山校学園長・サッカー日本代表元監督の岡田武史氏

:一方、私は青森で地域×教育をベースにした「まちなかキャンパス」という会社をやっていまして。もともとは、埼玉で長いこと学校の先生をやっていて、東大をはじめ大学に何名合格させるかみたいなことが評価の軸になる進学校で働いていたんですけれども、いろいろと教育の限界というか社会で求められる力と学校で教育していることがどんどん乖離していっているというところに違和感を感じて学校を辞めて、青森に移住してその会社を7〜8年やってきています。
そんな活動をしているときに、たまたま岡田さんのオンラインのセミナーにオーディエンスとして参加しまして、岡田さんがFC今治を中心として共助のコミュニティを作るというお話をされていて、いまの里山スタジアムができる半年くらい前の会でしたが、スタジアムを中心にやろうとしていることを聞いていて、ここが学校になったら楽しいと勝手に思ってしまって、岡田さんに質問やコメントを送っていたら、主催者さんにウェビナーに入れてもらって喋る機会をいただいて、教育の話をさせていただいたんです。それが2022年5月の出会いでした。たまたま、FC今治の社長の矢野さんが大学のサッカー部の7個上の先輩でして、翌日矢野さんから電話がかかってきまして、とりあえず一回今治においでと言われて来てみたら「実は校長を探している」と。そこでいろんなものがつながって、プロジェクトが動き出したという感じです。

青森での「まちなかキャンパス」の活動の様子

つまり、地域×教育みたいなコンセプトと辻さんがやられてきたことと岡田さんたちがやろうとしていることが合致したってことですよね。青森から今治に移ってこられたということですが、地域にはこだわりはなかったんですか?
:もともとは、自分が作ってきた学びのコミュニティが最終的にどこに行きつくのかというのがちゃんと見えないなか、ひたすら作ってきていて。そんななか、岡田さんの話を聞いて、何か有事の際に、衣食住…岡田さんの言葉で言うと「ベーシックインフラ」が、このコミュニティの中で回っていくという一つの細い道が見えたんです。実は当時、他からも校長をやらないかというご依頼は受けていたのですが、その矢先に岡田さんに会ってしまって、本当に新しいところに思いを持ってやれるのは、おそらく今治だなと。まずは、しっかり今治でモデルを作って、それをいろんなところに広めて行けたらいいなという思いで今治を選びました。

与えるよりも、探究する時間に
重きを置いたプログラム

具体的に言うとここのFC今治里山校の特徴というのはどういうところにあるんですか。
:大きな特徴としては、今までの学校は与えるものが多いというか。基本的には「どこの大学に行くか」みたいなことを指標に、いろんな計画とかされているのかなと思うんですけども。我々は自ら判断し、選択できる「キャプテンシップを持った人材を育成する」というコンセプトを立てており、基本的には与えるものをできるだけ減らそうと思っています。
例えば授業の時間数でいくと、高校って文科省の決まりでは74単位で卒業できるのですが、多くの学校では年間35単位×3年間、約100単位取らせて卒業させるんです。対して我々は、できる限り74に近づけて最低限のものを与える。もちろん選択科目として選ぶことはできるんですけども、最低限74で卒業できる形にしています。あとは、座学。特に進学校だと週6時間〜7時間、英語や数学があるという状況ですが、我々は可能な限り学習指導要領上必要な分しか残さず、それ以外に、野外体験教育と環境教育を組み合わせたヒューマンディペロップメントプログラムを週3時間入れています。
あとは「総合的な探究」という時間が、すべての高校で基本週1時間あるんですけれども、これを我々は、週6時間設定しています。火曜日と金曜日の午後3時間は、完全に探究の時間という形で。探究は、学校を飛び出して里山スタジアムとかいろんな企業に学びに行くというのが大きな特徴です。今治タオルの工場にもご協力いただいています。
生徒さんは何名くらいいらっしゃるのですか?
:34名入学しました。
どういう方が多いんですか?
:いくつかパターンはあって、まず、一つは「起業したい」とか「社会をこうしたい」という強い思いを持っているような層。「生徒会長をやっていました」とか、リーダーシップを発揮してきたようなタイプが一定数います。二つ目が、いままでの学校教育にはフィットしなかったというか、疑問を持っているタイプ。いじめられて、とかではなく、なんだかよく分からないルールにしばり付けられたり、先生に説明を求めても「そういうもんなんだ」って抑え込まれてしまうみたいなことが受け入れられなかったというような。なかには学校に行かないという選択をしていたという子たちも一定数います。
あとは、サッカーの学校ではないとは言っているんですけれど、やはり一定数サッカーをやっていた子たちが岡田さんのもとで学べるならというので集まってきています。大体その3種類に分かれますね。入試で学科試験はやっていないのでオール5みたいな子もいれば、いわゆる「勉強」が得意でなかった子もいます。
学科試験をやっていないんですね。どんな入試だったんですか。
:推薦入試と一般入試の両方をやっていまして。推薦入試のほうは三通の推薦状と本人のエッセイとオンラインの面接。一般入試のほうは同じく書類選考のあと、一泊二日の合宿形式で1月20日と21日に今治の「はーばりー」という港の近くの施設で、合宿型の入試をやりました。全体のミッションがあって、参加者全員でそのミッションに向けて取り組んでいくというような。
まあ大げさに言うと、NASAとかJAXAとかああいう所の、カオスの状態でどんな動きをするかというところをいろんな人の目で見ていくという入試をやりました。
これからどんな授業になるんでしょう。
:いろんな子がひとつのクラスの中に混ざっているので、単純にどこかのレベルに合わせて授業をやるみたいなことが、そもそも成り立たないんですね。教科書を使って勉強をする子もいれば、AI教材でやっている子もいれば、教え合いをしている子もいれば、先生に質問をしている子もいるという形で、ひとつの授業の中で机がいろんな方向を向いて授業が行われているという感じになるので、恐らく視察に来られた方とかは、下手すりゃ荒れているとか学級崩壊している、と受け取る人たちも、もしかしたらいるかもしれないなあと(笑)。
おもしろいですね。辻さんも授業を行う予定ですか?
:今のところ校長ではあるんですけど、保健体育の授業は、ちょっとサポートもしてもらいながらやります。やっぱり高校生と直接つながっていたほうがいいなと思っているので、いろんな授業に顔は出す予定です。

学校での授業風景

校舎の入り口に飾られたFC今治のユニフォーム

地域の“キャプテン”になれるような
人に育ってほしい

県外からもいらしているんですか?
:入学者34名のうち15名が愛媛県で、19名が県外ですね。新しい寮を作ったので、その寮に入る前提で。全寮制ではなく通いもOKなのですが。なので、全国から生徒が集まっています。
遠いところで言うと、関東方面だと神奈川、東京、埼玉、静岡あとは、長野。九州だと、鹿児島から来ている人とか。あと広島もいますし、近くだと香川からも来ている。あと大阪もちょこっと。あと、滋賀もいますね。

寮は、男子寮・女子寮と分かれており、個室・食堂も完備

高校にしては、かなり多様な地域から集まっていますね。
:我々の思いとしては、本当は全国の47都道府県から1名ずつ来てほしいぐらいのつもりでやっています。
岡田さんはキャプテンシップを持った人材を育てて、その子たちがそれぞれの地域に帰って行って、それぞれの地域で感情の共有ができるFC今治のような共助のコミュニティを作ってほしいと思っています。今治に留めたいというよりは、全国から集まってきた人たちが再び飛び出して行くということをやりたいです。
その地域のリーダーになるような子たちを育てたいっていうことですよね。
:我々は、あえて「リーダー」ではなく「キャプテンシップ」っていう言葉を使っているのですが。「リーダー」というと上からグイグイ引っ張っていくような、「俺に付いてこい」っていうようなことを想起してしまうんですけれど、本当に地味でも泥くさくても、着実にいろんな人を巻き込みながら社会を変えていける人材という意味で、キャプテンシップという言葉を使っている感じですね。
教育する側としては、どういう人材の方が集まっているんですか。
:音楽などはもともといる先生にもお力添えをいただくんですけれど、英数国理社については完全に新しい先生方を採用しました。
一番上は62歳ですが、48、43、36、26、25、24という感じで、年齢もかなり幅広くて。関西の公立の中学校で教えてきたベテランで、教育長とかを目指していますみたいな方とか、幼小中高大の全カテゴリーで教えてきましたみたいな方とか。あとは、教員の経験はないんですけど、東大を卒業してベンチャー企業でしばらく経験を積んでこられて、いつか教育の現場に入ろうと思っていたような方とか。
採用する基準としては、もちろん一つは個別最適な学びというものに対応できる人、40対1でただただ教え込むみたいな授業ではなくて、いろんな子に対して、個別最適な学びというものを作るというところにコミットできる人です。あとはとにかく、本人がチャレンジをしているかどうか。学校の教員って、子どもたちに「これやれ、あれやれ」っていう割に、自分が学校から一歩も出ていないみたいなことがよくあります。そういう人ではなくて、とにかくチャレンジを続けている人ということで、先生の副業もどんどん推奨していこうとしています。
教員免許さえ持っていれば、未経験の方でも採用していく感じなんですか。
:未経験といっても、たまたま教員免許をとっていました、という方ではなく、教育現場にいつか戻るつもりで、まずは一般の企業で働いていましたというような方であれば採用します。いまの段階では教員経験がなかったのは1名だけで、それ以外は基本的にはみんな教員経験がありますね。
面白いですね。こういう取り組みって、いまの流れとして全国的にあるんですか。それともすごく珍しいんですか。
:新しい学校作りは、結構いろんなところで起きているとは思います。高校でいくと、例えば徳島県の「神山まるごと高専」という学校が、いま日本で一番とがった取り組みとして紹介されています。幼小中でいくと、「軽井沢風越学園」などは、もうすべての授業を探究に振り切っているところがあったり。同じ高校でも「横浜創英高校」だったり、佐賀県の「東明館高校」だったり、近くだと広島の「英数学館」や「広島叡智学園」だったり。いろんなところがおもしろい取り組みを始めています。
そのなかで我々の取り組みとしては、とにかく学校を飛び出すタイミングが多いというところと、野外体験教育含め、普通の学校だとできるだけ避けようとする「想定外」とか「修羅場」とか「板挟み」とか、あえてそういったところから逃げずに、そこに飛び込ませようとしているというのは特徴的かもしれないですね。
そういうコンセプトだとすると、小学校とか中学校のほうがむしろ良いような気もしてしまうんですが、高校にされているのはどうしてなんですか?
:親交のある中学校の先生からお話をきくと、小中で探究的な学びを深めていて、高校でもそれを続けたいと思っても、今はまだ選択肢が限られてしまうそうです。というのは高校に行くと、今まで自分の好きなことに没頭して何かを探究するということをやってきたのに、急にどこどこ大学に行くために、これとこれとこれをやってみたいな話になって、結局大学受験のための勉強をさせられるということが往々にして起きています。我々としては、大学受験を受けようが就職しようが学校内にいる間に起業しようが、そこは本当に本人の自由意志というか。80名いたら80通りというふうに考えています。そういう意味では、そういう子たちを受け入れるひとつの受け皿として、大事なポジションになるのかなと思っています。
もちろん早ければ早いほうが良いのは分かっています。ただ、僕らも結局この一年間募集活動をしてきて、最後の最後に質問で出てくるのは「それで、どこの大学に入れてくれるんですか」っていう質問が出てくるわけです(笑)。いやいや、そういうことじゃないんですっていうのは言ってはみるものの、やっぱり自分の子どもを「良い大学」に入れたいという保護者の皆さんは、そう簡単には納得しないですよね。特に新しい教育とか、教育に関心がある人ほど結局は「それで最終的に、どこの大学に入れるの」ってなることも多いので、まあここは本当に皆さんジレンマをかかえながらやっているんですけど、我々はそこを振り切っている感じです。
ありがとうございました。これからの学校や生徒さんがどう進化していくのか、楽しみです。


FC今治高校 里山校ホームページ
https://fcihs-satoyama.ed.jp/

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